光合成や呼吸が野菜の成長にどのように影響し、温度とどういった関係があるのか?どの野菜にどの程度の光エネルギーが必要かなど、野菜の光合成と呼吸のメカニズムについて詳しく解説しています。
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公式YouTubeでも野菜の光合成と呼吸の仕組みを詳しく解説しています。テキストと合わせて観るとより理解が深まるのでおすすめです。
みなさんは園芸書などで、陽当たりの良い場所で育てようとか、気温が低いときは保温して、逆に高いときは遮光して温度を下げるなど、陽当たりや温度が大事といったフレーズを見たことはないでしょうか。
これらのアドバイスの本当の意味や目的が分からないまま、野菜作りをしているという方は案外多いかもしれません。
野菜の光合成と呼吸の仕組みを理解できると、野菜の収量をぐっと増やすことができるようになります。
野菜は茎葉の光合成によって、空気中の二酸化炭素を吸収して酸素と糖分・デンプンなどを作り出しています。
光合成は植物の成長で一番重要な働きで、野菜の収穫量を上げるうえでかなり重要です。植物の光合成や呼吸の仕組みを理解して、効率よくこれらを行わせることができれば、味が良くて栄養価の高い野菜作りに大いに役立ちます。
少し専門的な内容もありますが、分かりやすく解説していくので安心してください。野菜作りでは、この光合成を効率よく行えるかが、成功と失敗の分かれ道になります。
植物とは切っても切り離せない、光合成や呼吸の仕組みを学んでいきましょう。
まずは光合成と呼吸に大きく影響を受ける、植物の各器官について解説します。
この表は植物の茎・葉・根の構成をイラストにしたものです。
野菜の茎や根の先端には、頂端分裂組織と呼ばれる生長点があり、細胞分裂を繰り返すことで、茎・葉・根が次々に形作られていきます。それぞれがどのような器官なのか見ていきましょう。
茎は植物を形づくる骨格としての役割とともに、養分や水分の移動の通り道となる器官です。
茎の中心には導管を含む木部や、師管を含む師部が組み合わさった維管束が通っています。
トマトやキュウリなどの果菜類は、葉と葉の間が伸びて節間が長くなる直立型ですが、葉野菜類や直根性の根野菜類の多くは、短い茎に多くの葉をつけるので、節間は短く葉も重なりあってロゼット型になります。
ちなみに節間とは、植物の茎から出る葉や枝が着生する、節と節の間の部分のことです。
ロゼット型とは、冬期のタンポポの葉のように、短い茎に葉が密生してつく生え方のことで、バラ(ローズ)の花のように見えることから、このように呼ばれています。
葉の付け根にあるのは葉えきといいます。
この部分は、一般的に1個の芽(えき芽)が形成され、これが伸びて分枝(側枝)になります。主茎の先端を摘心すると、生長が早くなって分枝数も増えます。
実野菜の収穫量を増やすときに、株が一定の高さになって主枝を摘芯するのはこのことが理由です。
光合成による養分の生成を担う大切な器官で、蒸散や呼吸などのほか、水分や酸素を外界と交換する役割をします。
葉の生長は栽培環境の影響をもっとも強く受け、収量に大きく関係するため、栽培管理を適切に行って、じゅうぶんに大きく健全な葉に育てることが大事です。
結球性のハクサイやキャベツなどは、生育初期は外葉がロゼット型に生育しますが、一定の環境条件になると外葉が立ち上がって、内葉を包み込むような姿になって結球が始まります。
なお、タマネギの球は、葉の付け根が変形して肥大したものです。
根は水分や養分などを土中から吸い上げるほか、植物を支える役目を担っている器官です。
先端近くの分裂組織が細胞分裂を繰り返すことで、根が成長していきます。
根の表面に生える細い根毛によって、表面積が増えて根を土中に固定し、根から吸収された水分や養分・二酸化炭素が、中心柱を通って株全体に運ばれていきます。
以上が主な植物の器官と役割です。
光合成とは根から吸収した、水と空気中の二酸化炭素をもとに光エネルギーを使って、葉緑体の中でデンプンなどの炭水化物をつくる働きのことで、呼吸とは、空気中の酸素と光合成で作られた栄養分を消費しながら、さまざまな活動に必要なエネルギーを作りだすことです。
植物が呼吸するときには、人間と同じように二酸化炭素を放出しています。
実は植物が放出しているのは酸素だけでなく、二酸化炭素も同時に放出していて、この時に活躍するのが主に葉の中にある、クロロフィルや葉緑体と言われる組織です。
呼吸は植物が生きている間は昼も夜も行われますが、光合成は光を受けたときだけ行います。
つまり、植物が十分に光を受けている昼間は、呼吸によって取り込まれる酸素と放出される二酸化炭素の量よりも、光合成によって取り込まれる二酸化炭素・作り出される酸素の量のほうが多くなります。
反対に夜間は、呼吸だけを行っているので、酸素を取り込んで二酸化炭素だけを放出しています。
夢を壊す話になるかもしれませんが、1日の中で二酸化炭素濃度がもっとも高いのは早朝なので、早朝の森林浴の空気が美味しいという話は、気分的なものが大きいのかもしれません。
光の強さが、植物の光合成量とどのように関係しているのか、詳しく解説していきます。
このグラフは光の強さと光合成速度を表したものです。
1枚の葉に強い光を少しずつ当てていくと、光合成で取り込まれる二酸化炭素の量と、呼吸で排出する二酸化炭素の量が等しくなって、見かけ上は二酸化炭素の出入りがなくなってしまいます。
このときの光の強さを、光補償点といいます。
光をさらに強めると、光合成速度は光の強さに比例して増加しますが、 最後はどんなに光を強くしても二酸化炭素が増加しなくなります。
このときの光の強さを、光飽和点といいます。
光補償点や光飽和点の値は、野菜の種類ごとに異なっていて、多くの日照を必要とする「陽性植物」と ニラ・シソ・ミョウガなどの日照不足に比較的強い「陰性植物」があります。
植物にとって光エネルギーは無くてはならない重要な要素ですが、品種ごとに必要な量が違っているので、栽培地の日照環境を考慮しておくことが大切です。
こちらは野菜ごとの光合成特性を表にしたものです。
大きく分けると、強光を要求するもの・中光を要求するもの・弱光でも耐えるものがあります。
ちなみに、強光は40キロルクス以上で、中光は20~40キロルクス、弱光は10キロルクス以下になります。
この表は照度と明るさの目安ですが、 それぞれの明るさを例えると、強光が晴天の日の9時~15時頃、中光が曇天の日の、9時~15時頃、弱光は曇天の日の、日の出から1時間後になります。
すべての野菜の光補償点や、光飽和点を覚えるのは難しいかもしれませんが、光合成特性がどれに当てはまるか知っておくだけでも、より適切に生育を管理することができるようになります。
適切に光合成や呼吸を行わせるためには温度も大事です。
野菜作りにおいては、昼間はその野菜の光合成が最大となる温度に管理するのがポイントで、夜間の温度が高いと、日中に作られた光合成産物が無駄に消費され、植物の成長に影響が出てしまいます。
野菜の苗作りをするときに、夜間の温度を下げなさいと言われるのはこのためです。
夜間の高温によって作物にさまざまな障害が発生する原因については、そのメカニズムははっきりと解明されていませんが、呼吸量の増加による消耗・代謝の異常によって引き起こされるという説が有力です。
植物の呼吸は外呼吸と内呼吸の2つ。それぞれの仕組みを解説します。
植物の呼吸は大きく2つあり、1つは気孔と樹皮にある皮目、及び呼吸根によって行われる外呼吸で、植物体が外界との間で、酸素と二酸化炭素の出し入れを行います。
もう一つは糖を分解(解糖)してエネルギーを作り出し 活動や生長に必要なさまざまな物質を合成する内呼吸(細胞呼吸)です。
内呼吸の代表的な役割は、植物がさまざまな代謝をするために必要なATPの合成です。
ATPはアデノシン三リン酸とも呼ばれ、さまざまな反応にエネルギーを与えて、反応を進める働きがあります。
また、解糖によって作られる有機酸から、アミノ酸やたん白質を合成する際にも、呼吸によるエネルギーが必要です。
ここまでの話をまとめると、呼吸は植物の活動や生長に必要な物質を作る働きをするため、野菜を大きく育てる上で、健全な呼吸を行わせることができるかが大事になります。
植物の呼吸を健全に行させには、どのようなことに注意すれば良いのか見ていきましょう。
植物の呼吸速度は温度に大きく影響を受けます。
呼吸速度は温度と比例して増加していきます、 温度が高すぎて、呼吸量によるエネルギ一の消耗が増加すると、光合成量が一気に減少してしまいます。
多くの植物の呼吸が抑えられる温度帯は10~15℃で 光合成能力が最大になる温度帯は、20~25℃です。
そのため、高温期の日中に遮光などをして、適切に温度管理することが健全に呼吸させるポイントになります。
また、植物は夜間に光合成は行いませんが、呼吸は行っているため 夜間も呼吸を抑える温度で管理するのがポイントです。
植物内で光合成産物の転流がどのように行われるのか詳しく解説していきます。
葉もの野菜は、光合成を行う器官の茎葉を食用にするので 光合成量を高めることが収量の増加に直結します。
実もの野菜や根野菜は、茎葉の光合成によって合成された光合成産物を果実や根に運び 食用とする器官を生長させ発達させることで、はじめて収量の増加に繋がります。
ちなみに光合成産物などの、同化産物の移動や分配のことを転流と言います。
同化産物とは、植物が光合成によって生成するデンプンやタンパク質などの有機化合物のことです。
実もの野菜や根野菜は、この転流を効率よく行えるかどうかで収量が大きく変わるので、転流についてもう少しだけ深堀していきます。
転流は主に昼間や夕刻から、数時間の間に行われます。
茎葉が酸素と水を外に排出しながら、さまざまな養分を作り出し 光合成が終わる日没前には、甘みや旨みが凝縮された状態になっています。
つまり、昼間にじゅうぶんに光合成を行わせて、転流が終了する夜間は、低温で管理して呼吸による消耗を防ぐことで、苗の生育が順調になり果実の発達も促進されるということです。
これらは変温管理と言って、温室栽培などでは一般的な栽培方法です。
ちなみに夏の北海道や東北・高冷地の野菜が、甘くて美味しいと言われるのは この変温状態を自然に与えることができるからです。
キュウリやゴーヤなど緑色系の実野菜の場合は、表層細胞の光合成によって作られた光合成産物が、実の成長に直接転流されるので、果実自体を光合成させてやることで、肥大が早まり、甘みも強くなります。
光合成産物の転流が、植物の成長や収量に大きく影響することは理解できたでしょうか。
転流のメカニズムが分かれば、美味しい果実や茎葉を収穫することができます。これからの野菜栽培にぜひ活かしていきましょう
野菜の光合成と呼吸についての理解は深まったでしょうか 植物は太陽の光エネルギーがないと、十分な栄養(有機物)を作り出すことができず 正常な生命を維持する活動もできなくなってしまいます
光合成が不足することで、成長に必要な有機物が不足し、軟弱で徒長した株に育ち、草勢が低下して株の勢いが悪くなります。
免疫力が低下することで、害虫の食害を受けやすくなったり、病原菌やカビ類の侵入を許しやすくなったりします。
必要な光が十分にあり野菜が健康に育つと、病気や害虫に対する抵抗性が向上します。
野菜の収量に影響する一番目の基になる働きは光合成です。光合成量をいかに安定させるかが、野菜の収量に大きくかかわってきます。この記事がこれからの野菜作りにお役に経てれば幸いです。
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